早すぎた改革者⁈ 『塩野七生 皇帝フリードリッヒ二世の生涯』

こんにちは

読書量が減りがちな昨今

皆さんは、バスや電車、タクシーなどの移動時間に何をされていますか?

多くの人はやはりスマホ を取り出してしまうのではないでしょうか。

僕もご多分に洩れず、スマホを取り出して仕事を処理することが多いです。

どうしても仕事が気になるのと、そういう隙間時間を活用しないと対応が遅れてしまい、人に迷惑をかけたり自分の睡眠時間を削ったりすることになるからです。

電車に乗っている時に、車内を見回しても、印象としては9割以上の乗客がスマホ画面を見ていますよね。

そんな中で、本を紐解く人を見ると頼もしく感じたりします。

ある人が言っていました。「こんな時代にこそ、本を読む人は強い」と。

僕のここ数年の悩みも、これに関連するものです。

単純に本を読む量が減っている。読みたいという思いはあるし、書店に行けば次々と手にとってレジに並んでしまいます。

で、結果的に自宅に書籍の待ち行列ができる・・・

しかし珍しく、文庫本の発売日当日に購入して、一気に読み切った本がありました。

それが 塩野七生著「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」でした。

上下で1,000頁のそれなりに読み応えのある本です。

この直前に同じ塩野七生さんの「十字軍物語」も読んでいたので流れは良かったです。

皇帝フリードリッヒ二世は、ルネッサンス時代がおとづれる直前に登場した、ルネッサンスっぽい考え方を持った人でした。

当時、表面化しつつあった社会の歪みを、新しい考え方で正そうとした皇帝でもありました。

そういう人にありがちな、守旧派からの妨害や抵抗に晒されながらも切り開いていくという、思想と実行力の伴った人だったようです。

いかにも塩野七生さんが好んで取り上げそうな歴史上の人物です。

詳細は読んでいただくとして、僕が考えたことは三つ。

①必要な変革も、拙速すぎては実現できない

②変革を成功させるには、変革そのものに加えて定着化の措置も同等に重要

③社会は停滞や後退をすることもある

まず、

①必要な変革も、拙速すぎては実現できない

もっとも印象的だったのは、これ。

やるべきことが分かっていても、それが当たり前になるのは少し時間差があるという言い方もできるかもしれません。

キリスト教カトリックのトップである教皇が太陽で、神聖ローマ皇帝はその光を浴びてこそ光る月である、と言われた時代に、この主人公は論理性を追求し、納得しなければ教皇の命令も無視する、という行動をとり何度も破門になったようです。

そして、封建領主の集合体でしかなかった国家を法治国家に持って行こうとしたわけです。

ルネッサンスの先取りをしすぎてしまったので、彼の死後は結局守旧派に巻き返されて、一族は悲劇的な結末を迎えることになります。

半歩だけ進んでいれば社会も追いつけたのだろうな、と思いますが二歩も三歩も進んでいたから、一般の人は意味がわからなかったんじゃないかって思います。

とはいえ、進んでいたから彼の生涯は後世の僕らからも魅力的に映るんでしょうね。

日本で言えば織田信長とか、小沢一郎とかみたいな位置付けだったのかな、なんて思いました。

②変革を成功させるには、変革そのものに加えて定着化の措置も同等に重要

これは①の続きとも言えますが、システムとして確立せず人の能力に頼っていると変革は定着しないな、と。

この物語でも、変革の旗振り役のフリードリッヒ二世が亡くなった後、それを引き継いで国家のシステムとして運営することができませんでした。

かなり人材を育成したようです。それについてはそこそこシステマチックにできていたように感じました。

運や悲劇、抵抗勢力の各種の陰謀などもろもろの理由があったにしろ、ただ、結果としては十分に機能しなかった。

人を育てることは必要条件かもしれませんが、十分条件じゃないんだな、と思います。

その人が活躍するような基盤を整えないと。それが十分にできてなかった。時代に先行しすぎていたことが一因なのかもしれません。

③社会は停滞や後退をすることもある

これも今の時代に通じるのではないかとさえ思ったことの一つです。十字軍物語を読んだ時も同じように思いました。

中世のヨーロッパというのはローマ時代と比べて、多方面で退行していた時代だったようです。

農業の生産性や、都市の衛生管理、人の数から寿命や体の大きさに至るまで。

僕なんかなんとなく、文明や社会というのは必ず一方向に発展し続けるもの、と考えがちですが、社会のシステムに欠陥があると大幅に退行しうるもののようです。

現代は経済がグローバル化して、一箇所だけ取り残されることの方が難しくなりつつありますが、とは言え国際間比較をすると日本は徐々に退行しているように見えなくもないですね。

文明は発展し続けるという無自覚な思い込みや、「日本は特別」信仰などもあまり良い影響を与えていないと思います。

権力を持った守旧派により、停滞してしまったヨーロッパの中世から、我々も何か学ぶものがあるんじゃないかな、と思った次第です。

 

塩野七生さんの文体は他のようにすごく好む人と、なかなか読めないと感じる方とかなり二極化するようですが、もし興味が湧いたら是非手にとってください。

日々の行動に何かしらのヒントがあると思いますよ。

皆さんはどう感じるでしょうか。

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